◆読書の進め

 この建物が図書館だとはとても思えなかった。それほどおしゃれなヨーロッパ風の洋館であった。そしてすぐ横には建物より更に広い美しい日本庭園が広がっていた。中央には大きな池があり、その周りを散策できるように造られている。三重県は志摩半島にある阿児ふるさと公園の「阿児ライブラリー」を訪ねて、図書館に力を入れる行政の姿勢に心より拍手を送りたい気持ちになった。

 私はよく図書館を利用している。平均して月に10冊は借りているだろうか。特に「私の写真紀行」を製作するにあたっての参考資料はじめ、幅広い知識を習得すべく勉強は欠かせない。もしこれらの書籍を購入していたなら、どれほどの費用がかかったかと思えばありがたいことだと感謝に堪えない。

 私の人生は限られた中で一度きりであるが、読書によって何百、何千人の様々な人の人生に触れること出来る。それも遙か昔の人達から近年に至るまで、こちらが望めば誰とでも対話が出来る。更に日本のみならず世界中の人と出会う事も可能なのだ。何と素晴らしいことか。

 また人間が一生に経験するには時間的に限りがあるものだ。しかし読書によって多くの人の経験を、短時間で自分のものにすることも可能になる。人間形成も一冊の本から大いなる影響を受けることがある。そこには無限の可能性が開かれているのだ。

 時代は「活字離れ」の方向に確実に進んでいる。一抹の不安と寂しさを感じているのは私だけではあるまい。それに比べて映像文化は華々しく音を立てて突き進んでいる。しかしいかなる動物であっても読書は出来ないように、人間だけに与えられた特権を私達はいつまでも後世まで伝えていく責任があるように思う。

2008年夏