囲炉裏の火は煙を立ち上らせながら部屋中を覆っていた。秋も終わりの頃になるとこのあたりは一足早く冬を迎える。外は初雪で薄っすらとした雪化粧で美しい。生まれて初めて囲炉裏のある宿に泊まった。
ここは長野県の「大妻籠」。中山道の宿場と宿場の途中にある、ひっそりと佇む脇役的存在であるような宿場であった。歴史を感ずる数軒の旅籠が並んでいた。その中の「まるや」にお世話になった。ここは今から250年前の寛永元年から創業しているというから驚きである。現在の建物も築130年を超えるもので、まるで文化遺産の中にいるような、いささか場違いの処に来てしまった奇妙な気分であった。
予約のお客が入ってきた。20代の白人女性が二人(イギリス人とオランダ人)。しかも何れも映画に出てくるほどの美人なのだ。如何してこんな古い宿を選んだのだろうか。日本の古き伝統文化を肌で感じたいとのことであった。もう一人は芦屋に住むイケ面の男一人旅。さらに行商のお爺さんが一人。聞けば私が住んでいる街に過去30年間も住んでいたとか。
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