◆夫婦岩の絆

 遙か彼方に白雪を頂いた富士山が見えていた。それを誰も気づいてはいなかった。社会科の地理が得意であった私には、方角からして確信があった。それは朝早くに起きて海岸線を歩いて行くと、あまりにも有名な夫婦岩を見学した時のことであった。写真では何度も見た親しみのある風景であった。神戸から小学6年生の修学旅行は決まってお伊勢参りのであった。

  この修学旅行の半月前に伊勢湾台風が来襲した。1959(昭和34)年9月26日のことである。死者・行方不明者4,645人。これは戦後最悪の台風被害となった。近畿地方から中部地方へ、長良川・揖斐川流域の水害に加え得て、伊勢湾沿岸地帯を高潮が被害を一層拡大させた。それは大変に悲しい出来事であった。私も1995(平成7)年1月17日午前5時46分、神戸市長田区にて「阪神淡路大震災」を経験している。

 これらの悲しみを乗り越えるにはどうすればいいのか。その一つが家族の愛であり、血の通った絆ではないだろうか。私は今再び夫婦岩の前に立って暫く見つめていた。大きな岩と小さな岩が、一本の太い綱に寄って結ばれている。どんな激しい大きな波がこようが、荒れ狂う台風に遭ったとしても、全てを乗り越えて厳然と海の中にびくともしないで存在している。

 世界のすべての家庭がこのような夫婦であらねばと願うものである。しかし現実の夫婦の関係はそう単純なものではないようだ。もとを正せば他人同士の二人。一緒に生き抜いていくことが如何に難しいことか。「喜びも悲しみも幾年月」この言葉に全てが含まれているように思う。私も結婚して33年が経過した。親と暮らした期間よりも今の家族との年月の方が長くなってしまった。改めて妻に家族に感謝である。

2008年夏