◆二人の往復書簡

 段ボール箱いっぱいに手紙とはがきが溜まっていた。その殆どが神戸に住む両親からであった。携帯電話、メール、ファックスも、まだ世の中に出る前の時代である。紙に書いて郵送するしか意思の疎通はなかった。それは私が大学で東京へ行って以来、10年間(昭和40年代)の宝物となっていた。その後、度々の引っ越しで今手元に無いのが残念でならない。

 「川端康成と東山魁夷(響きあう美の世界)展」を見学した。場所は京都文化博物館。ここの別館は旧日本銀行京都支店で、美しいレンガ造りの洋風建築は国の重要文化財に指定されている。 ノーベル文学賞受賞作家・川端康成(1899〜1972)と、私の大好きな日本画家・東山魁夷(1908〜1999)の、近代日本を代表する文豪と画家二人が、親しく交流していたことは周知の事実である。その二人が交わした書簡が近年まとまって発見されたのだ。そのニュースに私も大変に興味を持った一人である。

 私は気の弱さもあってか、あるいは優しすぎる気持ちが邪魔するのか、面等向かって言いたいことをストレートに伝えるのが苦手だ。その場の雰囲気にのまれて大事なポイントや、言い難いことを言えなかった経験もした。しかし手紙や葉書などの文章にすると、口では言えない自分の気持ちがはっきりと書けるから不思議だ。

 展覧会は大変な人出であった。それは二人の人気が今なお続いている証明でもあった。レベルの高い往復書簡には、二人にしか通じない心と心の交わりがあるように思われた。それは書簡であるが故の最高の敬意と尊敬、相手を思いやる方法であったのだ。

撮影2007年秋