◆香りを贈る町

 日本で一番大きな島が淡路島である。南北40km、東西20kmあり、シンガポールの国と同じ面積を持つ。人口は15万人。その西海岸の中央に素晴らしい香りを送り続ける町・一宮町はあった。中国、朝鮮交易から大阪・堺に伝えられた線香の製造技術は、やがて淡路島へと受け継がれた。今では全国生産の70%のシェアを占めるに至っている。

 この地域には線香メーカー、下請け、そして多くの熟練された技術者達がいる。4人に1人は線香製造に関わって生活をしているから驚きだ。私も薫寿堂、大発、梅薫堂をはじめ、多くのメーカーに知人がおり、いずれも高い技術力を誇っている。今では各部屋の密封性の高い、日本の住宅事情に合った線香が求められている。煙が少なく香水のような薫りもあれば、消臭効果のものもある。臭いに敏感な現代人は多種多様の中から、自分に合った臭いを選ぶようになってきているようだ。

 夏の緑に囲まれたこの高台からは、一宮町の町並みから遠く瀬戸内海の播磨灘まで展望できる。そこに香りをテーマにした「パルシェ香りの館」はあった。ここでは150種類のハーブが栽培されており、見た目にも美しい香草や香木もある。更にハーブの香りに包まれた宿泊設備に、香りの天然温泉、ハーブを使った多彩な料理も楽しめる。

 我が家の玄関にはお香を焚くようにセッティングされている。日曜日に早起きをした時には、お香を焚いて静かに臭いを楽しむことがある。都会の多忙な生活の中であっても、心静かに自分自身を見つめると共に、癒しの大事なひと時を持つようにしている。

撮影2007年夏