◆琴ノ浦 温山荘園

 そこは個人の庭としては、日本最大の広さを誇っていた。和歌山県海南市にある日本庭園「温山荘園(おんざんそうえん)」である。ここの特長は海から水を引いた潮入式池泉回遊庭園で、潮の干満に応じて、園内にある3つの池の水位が上下するという、大変珍しい造作となっている。

 広大なこの庭園は、大正初期から昭和初期にかけて、武者小路千家の家元名代であった木津宗泉の指導により完成。ここの持主は日本で初めて動力伝達用革ベルトを製作し、世界有数のベルトメーカーとなった、新田長次郎の別荘として造園されたもの。この「温山荘」の名称は新田の雅号より、東郷平八郎(明治期の海軍元帥。日清・日露戦争の勝利に大きく貢献)が命名している。以来、皇族をはじめ著名人が多数来園している。

 面積は59,400平方メートル(1万8000坪)あり、穏やかな内海に面した恵まれた地理的条件にある。1998(平成10)年には文化庁より、主屋、茶室、門など9棟が登録有形文化財として指定されている。

 園内を散策した。改めてお金持ちの規模の大きさに、度肝を抜かれるような思いがした。それはあまりにもスケールが大きく、一人の人間の偉大さをまざまざと見せ付けられる思いであった。園内は美しい松林が多く、まるで盆栽を大きくしたようで、実によく手入れされていた。華やかな色とりどりの花が咲く洋風庭園と違って、日本庭園の色の基調は緑である。緑は目に優しく、微妙な木々の色合いを楽しむことが出来る。ここは緑一色の世界であった。

撮影2007年春