山里の垣根に大きな柿木が一本あった。葉っぱは少し残っていたものの、熟した柿が唯一つ残されていた。何故一つだけ残っているのであろうか。それも美味しそうな食べごろの柿である。私は不思議な思いで、つい見惚れてしまった。
ここは京都府の山奥にある美山町北村。茅葺屋根の里で有名な集落がある所だ。その集落には現在50戸の中、38棟が茅葺屋根のある建物となっている。その一角に柿木はあった。 俳句の季語に「木守柿(きもりがき)」という言葉がある。これは昔から柿の木に、一つだけ柿を残しておく習慣があったようだ。天に感謝し、自然に感謝の意を込めて、来年もたくさんの柿が実りますようにとの願いなのである。そしてその柿は鳥の餌に、あるいは旅人の口に入るか。村人の優しい心遣いの現われであった。 私は木守柿の言葉の真意に心から感動した。感謝の気持ちと周りへの優しさが、現在社会にあって最も要求されているのではないだろうか。毎日のニュースの中で、殺人、暴力、いじめ・・・・・、本当に暗い社会になってしまっている。長閑な山里のこの風景を見ていると、心癒され平和な気持ちを感じ取ることが出来る。今の日本社会にとって「心豊かな人間」が、求められているのではないだろうか。
|