◆武家屋敷に思う

 江戸時代での士農工商、インドのカースト制度、アメリカでの奴隷問題等々。同じ人間でありながら、差別を制度化してきた歴史を私達は知っている。身近なところでは、最近のニュースにもなっている社会問題で、学校内でのいじめにより自殺する子供が後を絶たない。痛ましい事件である。

 いじめる人、いじめられる人。差別する人、差別される人。方程式はみな同じだ。いじめる人、差別する人、そこには共通の快感がある。しかしいじめられる人、差別される人の立場に自分があるとするならば、果たして耐えられるかどうか。

 石川県金沢市の中心街・香林坊の裏道を入っていくと、大野庄用水沿いに閑静な屋敷町が広がっている。その建物の雰囲気からして、まるで江戸時代にタイムスリップしたような錯覚を感じさせる。ここは「長町武家屋敷跡」と呼ばれ、その昔に武士が住んでいた地域である。 なかでも「彩筆庵」がある路地は、石畳道の両側に土塀が続いており、他にはない一種独特の雰囲気をかもし出している。細く複雑に曲がりくねった道は、前田利家が敵の攻撃をモロに受けないよう、防御策として考えられたものである。

 武家屋敷内を見せてくれる所があった。それは藩祖前田利家の直臣野村伝兵衛信貞から、12代続いた野村家の屋敷跡である。当時としては最高に豪華なものであったのであろう。しかし一般庶民は如何であったのだろうか。私はお金持ちでもなければ、立派な家に住んでいるわけでもない。頑張れば誰でも幸せになれるような、民主主義の社会を支持する。しかしそのなかに差別が起こることも知っている。私は「人を思いやる心」こそ、全ての解決策であるように思えてならない。

撮影2005年春