◆玄宮園の庭

 ここで一日中ぼんやりとしながら、爽やかな秋を楽しんでいたいと願った。池には鯉が悠々とした姿を見せてくれている。紅葉には少し早いものの、薄っすらと色付き始めたのを感じ取れる。静かだ。何も聞こえない。時折、小鳥の囀りと風の音が聞こえる。まるでここに居ると、時間が止まっているように思えてくるから不思議だ。

 滋賀県彦根城のすぐ隣に旧大名庭園「玄宮園」はあった。ここは4代彦根藩主・井伊直興が1677(延宝5)年に造園したものである。この庭園は中国唐時代の玄宗皇帝の離宮になどられたもので、江戸時代初期の庭を今日まで守り伝えている名園である。

 大きな池に突き出すように臨池閣が建ち、築山には彦根藩の賓客をもてなす客殿の鳳翔台がある。ここでは嬉しいことに抹茶を楽しむことが出来、心静かに頂くことが出来た。夏ともなると池に咲く菖蒲の花の香りで、園内を包み込んでくれる。池の周りには中国湖南省洞庭湖の瀟湘(しょうしょう)八景にちなんで、地元の近江八景が表現されていた。これらの見事な庭園は1951(昭和26)年、国の名勝に指定されている。

 毎年9月にはライトアップされた庭園に、幻想的な雰囲気のなか「虫の音を聞く会」が開催されている。琵琶湖に近いこの辺りの秋は、特に空気も清清しく綺麗に感じる。月夜の下に爽やかな風が吹き、浴衣に身を包み、鈴虫をはじめ美しい虫の音を楽しむ。それは厳しい夏の暑さから開放され、身も心も優雅な時を過ごせるようで、想像しただけでも羨ましい限りだと思った。

撮影2005年秋