ラテン系の顔をした外国人の紳士が、私の方へ近づいて来た。「カフスボタンが外れそうになっていますよ」と、英語で忠告してくれた。私は笑顔でお礼を返した。それは品川駅前のあるホテルパシフィック東京のロビーでの出来事であった。ゆったりとした豪華なソファーが、とても贅沢な雰囲気を感じさせた。今から35年前のことである。 その外国人は他人のことなのだから、別に放って置けばいいものを、わざわざ席を立って勇気を持って忠告してくれたのだ。現在の日本人は、人が困っていようがいよまいが、全く知ったことではない。つまり関わりを持ちたくない、風潮が出来上がっているようだ。私は見ず知らずの外国人の、勇気ある行動と親切な心に感謝した。私もそうありたいと願いつつ。 ホテルパシフィック東京には、仕事の関係で一度宿泊をしたことがある。それ以外にも何度か訪ねてもいる。品川駅のすぐ目の前にあり、交通便のよい高層高級ホテルであった。今回は数年ぶりに会う東京の友人が、近くて分かりやすいこの場所を指定してきた。JR品川駅の改札を出て周りを一望した。広々とした構内はこれまでの暗いイメージは全くなかった。明るくモダンな光景に驚きは隠せなかった。
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