ついうたた寝をしてしまった。自分の寝息が聞こえると同時に、隣に座っていた妻の肘がノックしてくる。それが二度ほど続いた。京都市東山区にある南座で、初めて歌舞伎を鑑賞した時のことであった。今から十数年前のことである。 私は熱狂的な「宝塚歌劇」のファンがいることを知っている。同じようにテレビで歌舞伎の観劇を見ることもある。そこには年齢層は違っても、多くの根強いファンを魅了し続けている伝統芸術があった。 南座の正面入口に立って建物を見上げると、由緒ある櫓を備えた桃山風破風造りの豪華な劇場であった。それを見ただけで日本伝統の芸術が、醸し出されているように思えた。そして大きな赤い提灯には、「勘亭流」と呼ばれる歌舞伎独特の文字で「南座」と書かれてあり、一層雰囲気を盛り上げていた。大きな看板に描かれた歌舞伎の絵。勘亭流の文字。ここにいると江戸時代にタイムスリップしたような、雰囲気が漂っていた。
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