それは瓦屋根と桃山御殿風総桧造り二階建ての、見事な木造建築であった。ここは国内外の一流のお客をはじめ、この建物の雰囲気が好きな人達が、好んで宿泊をする人気のホテルである。そこからは興福寺・五重の塔、若草山、東大寺大仏殿などが一望できる高台に名門・奈良ホテルはあった。 1909(明治42)年に創業した奈良ホテルは、一見周りの雰囲気からお寺のように見える建物であった。しかし外見の豪華さからも、日本の迎賓館をイメージする素晴らしいものであった。100年近くも伝統と歴史を護り通してこられたのだ。 一歩なかに入ると、そこは和風には違いないのだが、実に天井が高く、心にゆとりの空間を与えてくれる。館内の随所に明治、大正時代の華やかな文化の香りが漂ってくる。これまで美術館で何度も見たことのある上村松園の日本画「花嫁」をはじめ、数々の名画を味わうことも出来る。鉄筋コンクリート建の、箱形シティーホテルに慣れている我われにとって、ここは古都・奈良を大いにイメージアップさせ楽しませてくれる。更に素晴らしいのは約1万坪におよぶ大庭園である。ここは文化財指定の旧大乗院庭園に連なっている。ゆっくりと心安らかに散歩をするのも、大いに気分転換となるように思われた。
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