この建物を初めて見たのは写真であった。豪華な洋館は明るい黄色に染められた木造建築。正面入口にはシュロの木が植えられており、イギリス植民地であった頃のシンガポールか、東南アジアの南国を思わせた。これ日本にある建物?写真に添えられたキャプションを読んで驚いた。そこは東京・上野公園内の不忍池からすぐ近くにあった。三菱財閥の屋敷・旧岩崎邸であったのだ。 1896(明治29)年に岩崎邸は完成。三菱の創業者である岩崎彌太郎の長男・岩崎久彌が、英国ロンドン生まれの建築家ジョサイア・コンドルに設計を依頼。コンドルは東京博物館をはじめ、鹿鳴館、ニコライ堂、三井倶楽部などを設計している。弟子には東京駅、日本銀行を設計した辰野金吾もいる。 完成当時は15000坪の敷地に20棟以上の建物があったが、その内3棟が現存している。一棟は本格的洋風建築の木造2階建で、地下も備えた17世紀の英国ジャコビアン様式を基調としている。館内に入るとそこはヨーロッパであった。壁からドア、柱に至るまで見事な洋風彫刻が施され、豪華さを一層引き立てている。さらに書院造りを基調とした純和風館に入ると、落ち着きを感じて日本人を意識させてくれる。そして広い芝生の庭園の先には、スイスの山小屋をイメージする撞球室(ビリヤード場)も。
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