◆大和文華館の静けさ

 奈良市内の西に位置する学園前駅付近は、閑静な住宅地として人気は高い。関西では芦屋に次ぐ高級住宅地であるようだ。随分昔のことであるが、この地域に私の友人が住んでいた。新築の家が完成したので遊びに来てほしいと招待を受けた。そこは大きな二階建ての日本建築で、費用は5億円と聞いて内心驚いた。庭園が見えるガラス張りの岩風呂は、広々としてゆったりとくつろげた。夕食中に二人の娘さんがバイオリンを演奏してくれた。歓迎の気持ちが痛く感じ取れた。あれから20数年が経過した。

 大和文華館はそんな静かな住宅地の中にあった。ここは東洋古美術を中心とした私立の美術館である。大きな池に面した丘の上には鬱蒼と茂った雑木林が続き、その中に蔵を思わせるような立派な展示場はあった。

 ここは近鉄(近畿日本鉄道)の社長であった種田虎雄が、この場所に美術館の建設を提案。1960(昭和35)年、近鉄創立50周年行事の一環として開館している。国宝4件、重要文化財31件を含む約2000件の作品を系統的に収集している。

 私が訪ねたときには漆工芸展が開催されていた。漆工芸の価値は分からないが、これまで輪島塗の魅力は知っていただけに、興味深く拝見させて頂いた。広い庭に出てみると鴬の美しい音色が聞こえてきた。そして自生しているササユリと出会った。中年の婦人が木陰でササユリのデッサンをしていた。見るとかなりのレベルの人のよう思えた。私はユリの清楚さがたまらなく好きだ。

撮影2006年夏