美しい庭園にはうっすらと朝靄がかかっていた。幻想的な風景であった。朝早くの入場のためか、見学者は一人も見当たらない。空気は冷たく深呼吸をすると、身体全体が冷えていくのを感じた。耳を澄ましても何も聞こえない。静寂の一時であった。目を凝らしてみると岡山城のシルエットが見えている。これは10年前の晩秋の頃に、始めて岡山後楽園を訪ねた時の印象であった。
ここは国特別名勝に指定され、茨城県水戸市の偕楽園、石川県金沢市の兼六園と共に「日本三名園」の一つに数えられている。いずれも素晴らしい特長ある日本庭園で、私自身にとって全く甲乙付けがたい魅力を持っている。ここ岡山後楽園はこれまでの日本庭園には珍しく、芝生が大きなスペースを占めていた。私はこの広々とした開放感が好きであった。
今から300年前の、1700(元禄13)年に後楽園は完成している。池田光政の子綱政が14年の歳月をかけて造らせた江戸初期の大名庭園である。岡山城から旭川を隔てた広大な中州に、美しい庭園はまるで箱庭を大きくしたように広がっていた。梅、桜、ツツジ、花菖蒲、あじさい、紅葉、椿等々、四季折々の花々が訪ねる人の目を楽しませてくれる。大きな池が幾つもあり、曲水に滝の音が聞こえてくる。
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