◆川端康成の文学

 「道がつづら折になって、いよいよ天城峠に近づいた・・・・」とは、「伊豆の踊り子」の冒頭の書き出しである。勿論、小説家・川端康成の作品である。 私は20代半ばの頃、伊豆半島の山中にある「天城荘」という純和風旅館に、夏季研修に3年連続で訪ねたことがある。高さ30mの大滝を目の前にして入る河原の湯はまさに絶景。更に奥行き30mある秘湯穴風呂は、少々冒険気分にさせてくれサウナ効果も期待できる。28種類もあるお風呂の湯に浸かりあって、男同士のロマンを語り合ったことを思い出す。場所柄「伊豆の踊り子」の作者である川端康成を、身近に感じた最初の時であった。

 本州を結ぶ瀬戸大橋の四国側の橋の袂に、「東山魁夷せとうち美術館」はあった。そこで「川端康成展 文豪が愛した美の世界」が開催されていた。東山と川端との交流は親密なものであったことは有名である。入館してまず驚いたのは本物のノーベル賞メダルが展示されていた。川端は1968(昭和43)年ノーベル文学賞を受賞している。これが世界最高峰の金メダルなのだ。

 更に自筆の原稿に書かれた字を見て笑ってしまった。川端は字が下手くそなのだ。と同時にある種の親近感を覚えた。勿論活字になってしまうのだから、読めればいいのだが。また川端が愛用した執筆用の座卓には様々な必需品が置かれていた。さすがに大作家であることを感じさせた。彼の作品は数多く映画化されている。伊豆の踊り子、雪国、古都、千羽鶴などがそれである。これらを見たとき物語の素晴らしさは勿論、川端の文学的センスを通して人間の心の奥を知ることが出来た。

撮影2006年春