◆ 小江戸・川越

 幸運なことに江戸時代を歩くことが出来た。埼玉県川越市に足を延ばしてみた時のことだ。西武新宿線の終着駅「本川越駅」を下車。北へ徒歩10分少々行くと、これまで見たことのない見事な町並みが続いていた。江戸時代の映画村に来たような錯覚さえ覚える。本物の歴史的建物がズラリと建ち並んでいた。ここは江戸時代の下町情緒を思わせる川越のメインストリートなのだ。

 江戸時代の北の守りとして重要な地であった川越は、豊富な物資の供給地として発展していった。川を利用して舟運で江戸まで物流を運んだ。サツマイモの産地でもあった川越は、「栗(九里)よりもうまい十三里(日本橋――川越間の距離)」とまで歌われたほど有名であった。

 しかし1893(明治26)年の川越大火により、町の3分1が焼失してしまった。豊かな財力を持っていた商人たちは、直ちに耐火性を重視した土蔵造りの建物を再建した。今日見られる多くはこの時のものである。特に蔵のような重厚な建物と、屋根瓦の豪華さには本当に驚かされた。

 その中で町のシンボルとなっているのは、何といっても鐘撞堂であろう。4本の巨大な杉柱で支えられた木造3階建の櫓(やぐら)である。午前6時、正午、午後3時、午後6時の一日4回の「時」を告げてきて400年近くになる。現存するこの建物は川越大火の翌年に再建されたもの。

 歴史と文化を持つ町は幸せだ。それを長く保存しようとした先人の人達の、意識と努力に深く敬意を表したい。神戸にある異人館界隈と同じように、多くの人達にその魅力を末永く共有されていくことであろう。今回の旅でまた一つ、私の大好きな町が生れたように思えた。

撮影2005年 冬