◆ 水の都・松江

 全国各地にそれぞれ特長ある立派な城が残っている。勇壮な姿をしている城の写真を撮ることは、カメラを持ち歩きしている私にとって、魅力ある被写体である。勿論一番のスポットは、城の中心の天守閣ではあるだが、櫓、石垣、堀等も見逃せない美しさを持っている。しかし城にまつわる文章を書くとなると、不思議なことに何故かペンが進まないのだ。そもそも城は「戦」に対応するためのもので、そこには尊い生命が失われることを想像するからであろうか。人間の生命ほど大切なものはこの世に存在しない。平和のための戦争もありえないと思っている。

 島根県の県庁所在地は松江である。そこには今から390年前に、関が原の合戦で手柄があった堀尾吉晴公が、5年の歳月をかけて造り上げたのが「松江城」であった。山陰地方で唯一天守閣が現存する貴重な城であり、別名を千鳥城とも呼ばれている。国の重要文化財にもなっている。

 城の周りに張り巡らされた堀には、遊覧船が優雅に進んでいた。遠き歴史に思いを馳せながら、小春日和の爽やかな秋のひと時を楽しむ人達がいた。私の目には実に平和な光景として写った。豊富なここの堀の水は、すぐ近くにある宍道湖より取り入れている。宍道湖と中海に挟まれた所に松江城はあり、美しい城と町並みがマッチする素敵な所であった。

 私は「水の都 松江」の町並みが好きだ。日本海側の冬は雪と凍りつく大地で、想像を越える厳しい自然条件にある。しかしこの地域に授かった美しき宍道湖・中海は、ここに住む人達の宝であり誇りでもあるようだ。そしてそれ以上に、心温かい人達の集まる町でもあるのだ。

撮影2005年 秋