◆ 箱根の大自然

 ここを初めて見た時は、まるで地獄に来たのではないかと思ったほどだ。荒涼とした大地、えぐられたような山肌。あちこちから異様な臭いと煙が立ち昇る。水蒸気なのか、炭酸ガス、硫化水素ガスを大量に吐き出している。ここは箱根を代表する名所「大涌谷」だ。今から約3000年前、大規模な水蒸気爆発を起こした時に出来たとされる。

 ここの名物に黒玉子がある。温泉で茹でた後、さらに地熱を利用した天然の蒸し釜で蒸したものである。表面は黒いが中身は見た感じ何も変わらない。しかし温泉の成分がしみ込んでいるためか、玉子大好き人間の私にとっては、本当に美味しく味わえた。

 台ケ岳の山麓より18万平方メートル一面に、ススキが波打ってまるで海のように見えた。ここは箱根仙石原で大昔には、湖底であったとされている。以来、湖は徐々に枯渇し、一部に湿原として名残を留めている。時おり初秋の爽やかな風が顔を撫でてくれる。心地よかった。大自然を感じた一瞬であった。毎年3月中旬には、この辺り一面に火を入れる野焼き行事がおこなわれる。今では春を告げる風物詩となっている。

 近年箱根一帯は芦ノ湖周辺を中心に、リゾート開発が急速に進められている。優雅でデラックスな施設が次々に建てられていく。しかし一度大自然を破壊してしまうと、もう元には戻らないのだ。箱根の魅力はあくまでも自然である。大自然を楽しむことが最高の贅沢なのだ。

撮影2005年 秋