◆ 赤城山の話

 赤城山と聞けばある素晴らしい人物を思い出す。それは学生時代を東京で過ごしていたときの頃である。彼は早稲田大学の学生であった。いつも黒い学生服で、その上に赤ちゃんを背中に負ぶって学校に通っていた。たしか姉の子供を面倒見ていたように記憶する。度のきついメガネをかけ、髭が濃く、男臭い姿であった。見栄も体裁も何もない苦学のなかでの学生生活。その彼の出身が群馬県「赤城山」近くであったのだ。

 東海林太郎の「赤城の子守唄」を思い出す。

「♪〜泣くなよしよし ねんねしな  山のカラスが啼いたとて

  泣いちゃいけない ねんねしな  泣けばカラスが またさわぐ ♪〜」

 有名な曲だ。おそらく彼も背負った赤ちゃんに、遠い故郷「赤城山」を偲んで唄ってあげたに違いない。 さらに「名月赤城山」もある。

「♪〜男心に 男が惚れて  意気が解け合う 赤城山 ♪〜」

 これも一世を風靡した名曲である。そして何といっても新国劇「国定忠治」では、あの有名なセリフ「赤城の山も今宵限りか――」は忘れられない。

 この赤城山は日本百名山にも選定されている。標高は1828m。裾野の面積は富士山に次いで第2位である。カルデラ湖の大沼や湿原もある。そして素晴らしい温泉もある。この山を登りながら、たくさんの忘れられない思い出の人達が、私の頭の中を過ぎっていった。

 撮影2005年 秋