◆青葉燃ゆる若草山

 遥か彼方からでも美しい芝生で覆われた小高い山が見える。奈良の名所「若草山」だ。記憶をたどると小学5年生の時に、神戸から遠足で訪ねたことがある。子供心に若草山の上から、滑ったり転がったりしたことを思い出す。それほど芝は綺麗に見えたのだ。しかし実際は見た目よりも急斜面で、それに鹿の糞があちこちに転がっており、すぐにその気はなくなった。

 この辺りに鹿が沢山いるのには驚いた。これらの鹿は全てが野生なのだ。私のイメージには野生はいつ何時、その正体を現すかわからないという恐怖感が絶えずある。しかしここの鹿は全く違う。人間慣れしているのだ。鹿せんべいを手に持っただけで周りから数頭が寄ってくる。上手にあげないと一度に全てを食べられてしまう。この光景は何十年、何百年も変わらないのだ。

 若草山は標高342m。全山が芝生に覆われており、丸い丘が3重に連なっていることから三笠山と呼ばれていた。この山は古い火山でもあるが、山頂には古墳(前方後円墳)も築かれている。そして山頂の展望台から見る景色は実に素晴らしい。奈良、京都方面を一望できると共に、古代の香りが漂ってくるように思える。 若草山の山焼きは有名だ。毎年成人式の前日の夜に行われている。市内のネオンは消灯され、大量の若草粥がふるまわれる。そして山に火が放たれると、古都奈良の新年を飾る炎の祭典は最高潮に。最後は冬の夜空に美しい花火が舞い上がる。素晴らしい伝統は大事にしたい。

撮影2005年 夏