カキツバタが雨にぬれ、鮮やかな紫が一層色ごく冴えていた。私は日本三名園の一つ、北陸・金沢にある兼六園を訪ねた時のことである。そこは静かであった。実に静かで、かすかに小雨の音が聞こえるだけであった。池のほとりには庭園を代表する有名な灯篭が立っていた。二本脚の美しい曲線は、一方は水中に、一方は陸上にあり、そのアンバランスな形が特長なのであろう。
この日は小雨が降る生憎の天候であったが、園内には黙々と庭の手入れをする作業員がいた。見ていると芝の間に生える雑草を、丁寧に取り除いているのだ。庭園は生き物である。絶えず手入れをしていなければ、すぐに荒れ果てて死んでしまう。この人達のお陰で今日まで営営と、見事な庭園が保ち築かれてきているのだと思うと、感謝の気持ちが込み上げてくる。
兼六園が築庭されたのは1676年の加賀五代藩主前田綱紀の頃。この名は相兼ねることの難しい名園としての条件が、6つを備えているとの意味である。標高50mの高台にありながら、流水、噴水、池の美しさ等、園内には豊富な水が流れている。これは10kmも離れた犀川の上流から水を引くことに成功し、当時の土木技術の粋を尽くした結果だ。
|