◆シルクエンペラー

 長野県諏訪湖畔を走っていると、「この建物何だろう?」とあまりにも異質で、地域に似つかわしくない建物が目に入った。それはヨーロッパ風のどこかのお城のような立派なものであった。庭には円形の噴水にベンチ。ここは外国ではないかと錯覚する。

 見ていると近所の方であろう年配者が、小さな荷物を持って入っていく。建物を覘いて見ると何とそこは銭湯であった。400円で誰でも入れる。中は豪華で総タイル張り。窓はステンドグラスがはめられており、美しい彫刻が飾られている。湯船はまるでプールのような広さがあり、長方形の長さ7.5m・幅4m・深さは1mもある。底には黒い石が敷き詰められ、足裏の刺激で疲労回復となる。

 何故このような建物が出来たのであろうか。この近辺は昔から絹製品の盛んな所。そのなかで「シルクエンペラー」と評価され、財を成した片倉財閥が地域の住民に、厚生と社交の場を提供するために造られた施設だとのこと。隣には会館棟もあり、イギリス建築を取り入れた文化交流の場となっている。これらの建物は1928(昭和3)年に完成している。また1943(昭和18)年に懐古館が現在の諏訪市美術館となっている。

 今流で言うのであれば、企業が文化・社会に貢献することは「メセナ」の先駆けであったのかも知れない。その点では「片倉財閥」は素晴らしい先見の明と、その実行力を改めて評価したいと思う。

撮影2005年 春