世界新記録の表示に館内は興奮のるつぼとなった。ドン・ショランダー(アメリカ)男子水泳自由形短距離のヒーローである。一人で4個の金メダルは、まさに東京オリンピックのスーパースターであった。その優雅な泳ぎは、見ている人を魅了せずにはおれなかった。一方女子のスーパースターはドーン・フレーザー(オーストラリア)100m自由形金メダリストだ。 東京オリンピックの水泳会場になったのが、原宿駅近くにある「国立代々木競技場」であった。日本で初めて開かれたオリンピックは、近代化された日本をアピールする絶好のチャンスでもあった。この会場の建物はユニークな形で、見事な曲線美の吊り屋根は、高い芸術性を感じさせる。収容人数13753名。スポーツが持っている熱狂的な興奮と、これまで数々の感動のドラマが、ここで繰り広げられたのだ。それらは人々の心の中で今も生き続けている。素晴らしきアスリート達よ!感動をありがとう。 私の長女が幼稚園の時であった。大阪に職場の転勤で平野区に住んだ。近くにはスイミングスクールがあり、早速申し込みをした。将来は日本を代表するトップスイマーになればと、父親の夢と期待は大きかった。 入会してまもなくのこと、夫婦でスイミングスクールを見学した。2階にある見学場所には何人かの母親達もいた。子供たちは「滑り台」の上から、一人ずつプールに滑り落ちる練習をしていた。みんな大変に楽しそうであった。娘に順番が回ってきた。しかし滑り台の上で止まったきり、飛び込めないでいる。先生から激励を受けながらも3〜5分同じ姿が続く。見学していた母親から「あんな子がいたら迷惑やね」と、「ほんまやわ」、「先生もほっといたらいいのに」。きつい言葉に聞こえた。あれは私の娘ですと名のりたかったが、声は出なかった。恥ずかしい思いをしたが、運動神経と勇気がない子供であることがよく分かった。この姿を見て、わが娘のオリンピック金メダルの夢はすっかり消えてしまった。 撮影2005年 春
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