満々と水は流れていた。悠々とした姿で流れていた。ここは隅田川の一番下流に架かる「勝鬨橋」だ。この川は間もなく東京湾に吸い込まれて消えてしまう。潮の満ち干によっては、海水と混ざり合う川と海の境目にあるのだ。見ていると小さな船が絶えず上り下りしている。「♪〜春のうららの隅田川 上り下りの船人が〜」歌と同じ光景に思わず口から声が出てしまった。 勝鬨橋は名前の通り、「エイ エイ オー!」の掛け声から取った勝鬨から来ている。これは明治38年日露戦争の旅順陥落を祝ってのもので、「勝ち鬨の渡し」が由来となっている。橋自体は昭和15年に完成。この橋は「跳ね橋」で全長246mのうち、中央の両側22mが跳ね上がり、隅田川を大型船が通行出来るように仕掛けられたもの。当時は一日5回20分開閉しており、動く面白さ珍しさもあって、東京の名所になっていた。 しかし急速な車社会が進むにつれ、交通量が多くなり渋滞を招く結果となった。そして1970(昭和45)年以降、開くことはなくなった。運送会社でアルバイトしていた私も、跳ね橋だった当時の勝鬨橋だけは、避けて通っていたことを思い出す。名物が一つ消えてしまった。
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