希望と不安。喜びと悲しみ。嬉しさと寂しさ。雄飛と逃避。出会いと別れ。駅では人生の様々なドラマが繰り広げられる。18歳にして生まれて初めて独り暮らしをすることになった。東京での大学生活のスタートだ。両親と妹が神戸から東京まで付いて来てくれた。下宿先を見つけ、生活するのに必要なものを揃えてくれた。時間はあっという間に過ぎ、家族との別れがやって来た。東京駅まで送っていった。「身体を大事にして頑張ってね」と母。「うん」と私。言葉少ない別れであった。帰り道は一人ぼっち。帽子を顔に被せたまま、電車のなかで涙がこぼれ落ちた。 今から40年近くも前のことだが、学生時代は在来線の鈍行で東京駅を夜11時半ごろ発車し、神戸には朝の10時過ぎに着く。名古屋を過ぎて岐阜県・大垣駅辺りになると白々と夜が開ける。大きな荷物を抱えた買出しの婦人が沢山乗ってくる。大きな声でその土地の言葉で話す顔には逞しさを感じた。米原駅辺りになると学生の素朴な声が聞こえてくる。東海道の短い距離であっても、様々な言葉と人に出会うのだ。 東京駅は日本の大動脈である東海道・東北新幹線の始発駅であり、全国の中心となる重要な駅である。歴史を紐解けば、赤レンガ造りの東京駅が完成したのは1914(大正3)年のこと。当時建築界の第一人者であった辰野金吾の設計によるもので、諸外国にも見劣りしない威風堂々とした立派なものであった。関東大震災ではビクともしなかったものの、第二次世界大戦の大空襲で大きな被害も出した。 今では神戸に帰るのは、東京駅から新幹線と決まっている。ホームでは若い恋人たちの別れがあった。沢山のみやげを重そうに持って颯爽と列車に乗り込む人。時に芸能人、有名人にも出くわす。絶えず止まることなく、新しい人生のドラマがこの駅からスタートしようとしている。 撮影2005年 冬
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