◆わら葺屋根のある風景

 幼稚園の頃を思い出す。母方のおばあちゃんに連れられて、六甲山を越えて知り合いのお宅を訪ねた。そこは田舎であった。わら葺屋根の家で、日当たりのいい縁側に座って大人たちは話に弾む。私は横で座っていても面白くない。ふと広い庭を見ると、ニワトリ、ヤギ、それに犬が飼われてあった。ワンパク小僧の私は、動物たちと楽しく遊んだ。都会では味わえない喜びであった。

 新幹線で新神戸――東京間をよく往復する。車窓から見える景色は町も田舎も、それに自然の山・川・海等、大変にバラエティに富んでいる。日本は本当に美しい国なのだと改めて感じる。そうしたなかで、あまり意識して探したわけでもないが、わら葺屋根のある家を見た記憶がない。一般的には屋根は殆どが瓦である。

 阪神淡路大震災の時、瓦屋根の家が随分と倒壊したのを見た。比較的に古い家が多いのだが、瓦の重さと支える柱のバランスが、あれだけの大地震となると耐えられないのかも知れない。その後の神戸は一変して、殆どの屋根が軽いスレートを使用しているように見える。我が家もそうだ。

 わら葺屋根は見ただけで絵になる今の時代。絵画展、写真展を見学しても、競ってわら葺屋根の光景が多いのには驚きだ。日本人の哀愁の心に、大切に残されているのであろう。古きよき伝統は守らねばならない。私の目に「わら葺屋根の家」には干し柿、吊るした大根、玉ねぎ。縁側には畑で取れた食材が置かれ、庭では布団を干している光景がイメージとして浮かんでくる。それは静かで平和な日本人の故郷を、あたかも象徴しているかのように思えてならないのだ。

撮影2005年 冬