◆ 露天風呂から見る空

 私は広々とした大浴場が好きだ。夕暮れ時の露天風呂に入った。体が冷え切っていた。岩がゴツゴツした露天風呂に入ると、肌がビリビリ音を立てるような感触で痛かった。しかし暫くすると慣れてゆったりした気分にさせてくれる。顔は冷たい風に当っても首から下は温かい。 ふと空を見上げると、薄い水色で実に美しいものであった。空をゆっくりと見るのは久しぶりだ。雲の色は乳白色。やがて黄色に変化していく。そこに先ほどから鳥が空高く北へ北へと飛んでいく。沢山の鳥が同じ方向へ向かっていた。耳を澄ますと「カーカー」と啼いている。色も黒いので「からす」であった。

 自然と口から「♪〜からす なぜ啼くの からすは山に 可愛い七つの 子があるからよーーーー 山の古巣へ いって見てご覧 丸い目をした いい子だよ」と、歌が出た。 それは年末も押し迫った12月30日のことだった。一年間の仕事も無事終わり、気分は最高にリラックス。兵庫県西端の佐用郡へ、親友と共に年末の挨拶に行った。そこから10分余りも足を延ばせば岡山県に入り、宮本武蔵生誕の地といわれる山と田んぼの村に出る。ここには剣豪の道一筋に生き、六十余度の剣の勝負に全て勝ち切りる男のヒーロー「宮本武蔵」の香りが漂っていた。魅力ある歴史上の人物の一人だ。露天風呂(クアガーデン武蔵の里)はその一角にあった。入浴料は600円と手頃。新しい施設で気持ちが良かった。

 雲の色はやがて薄いピンクに変わろうとしていた。しかし急に厚い雲が空一面を覆い、暗くなってしまった。そして雲はまるで水墨画の色のように染まってしまった。そこへ正月休みで故郷に帰ってきたのであろう、親と子供たちが飛び込むように入ってきた。

撮影2004年 冬