六甲山脈と大阪湾の「ネコの額」程の僅かな土地に神戸の町は位置している。近年は海上都市を建設し、更には山裾から中腹くらいまで住宅地の開発は進んでいる。六甲山(931m)の最高峰近くに源を発し、幾つもの渓流を集めて大阪湾に流れ込む美しい川がある。神戸・東灘区の中央を流れる「住吉川」もその一つである。流路延長4km,流域面積11.9平方kmの、そこからそこまでの見える範囲の小さな川である。日本一の長さを誇る「信濃川」と比較すると、全長367km。流域面積となると新潟県の面積とほぼ同じ。相撲でいうと、「横綱」と入門したばかりの「序の口」程の差がある可愛い川なのだ。 この川は自ら形成した扇状地を流れる天井川で、生活廃水の流入がないこともあって水は極めてきれい。上流ではゲンジボタルも確認され、清流にしかいないとされるアマゴ、カワハヤ、その他の魚ではカワムツ、オイカワ、更にはサワガニ、水生小動物が消息している。これらの貴重な自然を保つには地元の人達の理解と協力なくしては不可能だ。春・秋に実施される美化清掃をはじめ、自然環境を普段から守るため、犬の糞、ゴミの持ち帰り等、徹底して呼びかけている。 今日の美しい住吉川になる以前には辛く悲しい歴史もあった。1938(昭和13)年「阪神大水害」では、流木流石そして周りの山、崖を鉄砲水が削り取り、これまでの川底よりも9〜11mも高く土砂が堆積し、川は左右に氾濫した。あたり一面に多大なる被害をもたらした。そして更には私にとっては思い出したくない「阪神・淡路大震災」1997(平成7)年。ここ東灘区は最も被害の大きかった地域であった。 今これらの無駄にしてはならない経験を見事に生かし、美しい川は地域の人から愛され親しまれ、なくてはならない宝となっている。川では子供達が元気に遊んでいる。木陰ではファミリーが弁当を広げて食事をしていた。クーラーの効いた家の中でファミコンに夢中になるより、締め切った部屋の中で食事をするより、大自然の中での空気を一杯吸って、太陽と美しい水に育まれた環境をもっとエンジョイしたいものだ。 撮影2004年 夏
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