◆ 故郷に錦を飾る

 3月下旬の頃、家族で加古川の下流近くの土手を通っていた。偶然にも「土筆」が出ているのを見つけた。周りをよく見ると一面土筆だらけであった。皆で袋一杯になるまで取って家に持って帰った。実に楽しかった。私の母に佃煮にしてもらったが、自分達で取って来ただけに本当に美味しく感じた。特にビールのおつまみには最高であった。あれから20年近くも昔のことを思い出す。この加古川は一級河川で水の量も多く川幅も広く、兵庫県内を流れる最大の河川で流路延長は86km。

 上流は丹波地域にも及び、その美しい川は氷上町の中を流れている。

 この川の畔に見事な古代ギリシャ建築様式の「氷上町立植野記念美術館」が建っている。堂々たる外観は近くを通りかかっても一際目立っている。

 直径70cm、高さ9.5m、重さ12tの石柱6本には、その柱頭にうずまきの石彫が施され、更に外壁には総花崗岩が使われている。他の建物では類例を見ない豪華さを感じる。収蔵美術品は現代中国絵画を中心に中国景徳鎮の磁器、コンテンポラリー・アート、パプア・ニューギニアの民芸品など870点。1994(平成6)年に開館している。

 この美術館に植野という人名が入っている。これは植野藤次郎氏のことで、この美術館の相当分を寄付されている。とても氷上町だけでこれだけ立派な美術館の建設並びにコレクションを、予算の捻出・企画・進行することは難しい。そこには強力なスポンサーが付かないことには全て不可能なことである。

 ジャパンエンバ(株)「毛皮のエンバ」を知らない人はいない。毛皮の中でも最も高級なミンクコートやストールを中心に、原皮の海外調達から製造を行い、直営店の全国展開と積極的な宣伝で急成長している。同社は1947年に植野物産商会として兵庫県氷上郡でスタート。つまり氷上町は植野オーナーの故郷なのである。故郷に錦を飾るとはこのことを言うのであろう。1994(平成6)年3月期には年商約120億円にまで成長。しかしバブル崩壊の波は「毛皮のエンバ」を直撃。それから10年後に倒産。負債は約174億円。会社は全て消えてしまったが、素晴らしき文化の殿堂は永遠に残った。

撮影2004年 春