◆少年時代の母との合作

 それは確か私が小学5年生の頃だったと思う。夏休みに南紀白浜へ旅行に行った。前後3回ほど続けて夏休みは決まって白浜であった。といえばなんとも優雅で裕福な家庭と思われるが、親戚に保養所の管理人をしていた人がいて、そこへ遊びに行ったまでのことなのだが。そこは家と違ってすばらしいリゾート地。白浜きっての海水浴場「白良浜」は関西でも有名な場所。その海岸のまん前に面した一等地に保養所はあった。

 夏休みは子供達にとって一番楽しい時であります。海水浴、そしてボート遊び、水族館の見学、ドライブ等、今思えば遊びほうけての毎日。しかしそれが許される年代でもあり、飽きることもなく元気一杯のワンパク小僧を演じておりました。しかし楽しいし時は終わってみればあっという間です。夏休みも終わりに近づけば宿題に追われて妙に落ち込みます。土産物屋で買った「貝殻」のパック。それに実際に海岸で拾ったいくつかの貝殻を加えて、空き箱の中にきれいに並べて「貝の標本」の出来上がり。とはいっても母親と出来の悪い息子との共同作品なのであります。

 白浜で最も印象に残ったのが「円月島」でありました。小さな島の真ん中に丸い穴が開いてる。この穴は長い年月をかけて、雨、風、そして波の作用によって自然にできた芸術作品である。絵ハガキの中の一枚に「円月島」がありました。美しい夕日の中に「円月島」のシルエットがくっきりと写っているものでした。私は「これだ!」と直感した。これを絵の宿題に描こう。人の倍の大きさの画用紙にあえて挑戦しました。一生懸命に頑張りました。心に残る美しい絵ハガキとは裏腹に、あまりにも違いすぎる絵の描写に、書き上げたもののショックは隠せませんでした。明日宿題は提出です。夜遅くまで母と共に絵に取り組む二人。「眠たいやろ,もう一日早く気がついていたら良かったのに」と母。申し訳ない気持ちと、遊びまくった自分への猛烈な反省で"もう二度とこのようなことは"と誓う。クラス全員の絵が教室に張り出された。母との共同作品(秘密)にはみんなから高い評価として「うまい!」と。

撮影2003年 夏